勝手に友達で小説書いた(フィクション)

花言葉


余命三ヶ月の僕は恋をしていた。

僕は病院のベットの上で、余命を宣告された昨日のことを思い出していた。

「僕は…僕はあとどれくらい生きられるのですか?」
狭い会議室のようなところで、両親に挟まれて座っていた僕は、どこか暗い顔をした担当医に聞いた。
「長くてあと三ヶ月かと…」

まだ二十年も生きてない。まだやり残した…ガラッ!
考え事を遮るかのように病室のドアが開いた。
「たつき〜!見舞いに来たよー!」
入ってきたのは大学のクラスメートのみさきだった。厚手のコートを着てマフラーを首に巻いているみさきは、少し寒そうで顔が赤らんでいた。
「うるせーよ、病院だぞ。」
「ごめんごめん、体調どう?それより再来月私の誕生日だから、それまでに治してプレゼントよろしくね!」
「いやいや、まだ遠いし、多分覚えてないって。」
「なにそれ!覚えててよ!」
僕の余命のことなど知る由もない彼女は相変わらず明るくて、僕はその笑顔に少し救われている。
僕が大学一年の秋に入院してから六ヶ月が経っていた。その時はまだ、この病気が治るものだと思っていた。それからこれまで、何度も見舞いに来てくれていたのがみさきだった。
「あのさ、みさき。」
「ん?」
「…いつもありがとうね……見舞い。」
「なになにいきなり、お礼言うとか珍しいね、気持ちわるっ!」
彼女は馬鹿にしてきたが、感謝の気持ちは本当だ。そしてそれ以上の感情が自分の中に芽生えていることも、自分で分かっていた。ただ、自分の余命のことも、みさきへの想いも、彼女に伝えることはできるはずがなかった。伝えたって困らせるだけだ。
「どうしたの?黙っちゃって。」
みさきの声で我にかえる。
「いや、べつにー。」
たわいのない会話でも、時間はあっという間に過ぎていった。相変わらず日が暮れるのははやい。
「じゃあ、わたしそろそろ帰るね。」
「ん、気をつけてな。」
みさきはコートのボタンをとめ、マフラーを巻き直して病室か出て行った。
僕はため息をついた。病気じゃなかったら……。

桜も散り始める五月。病室の外のイケダタツキ様と書かれたネームプレートの横には面会禁止の札が貼られていた。病状は確実に悪化していた。
来週みさきの誕生日なのに、会うこともできないなんて。僕は悲しみにくれながら何か良いアイデアはないかと考えていた。

そうだ、花を贈ろう。

僕は携帯で花屋を検索した。郵送サービスがある花屋に、宛先はみさきの家で注文した。僕は薔薇を七本贈ることにした。前に読んだ本に、薔薇七本の花言葉が「密かに想っていました」だと載っていたからだ。

みさきのことを好きになってから、僕はこの気持ちを伝えないと決めていた。みさきを悲しませたくはなかったからだ。死んでしまうくせに想いを伝えるのは身勝手すぎる。だからせめて、花言葉でこっそり伝えたかった。気づいてくれなくていいから。

面会もできない僕に、誕生日プレゼントありがとうと書かれた封筒と、一枚の写真が届いた。写真にはやや紫がかった鮮やかなピンクの花と写っていた。桜…じゃないな。何の花だろう。
封筒を開けようとすると、小さな文字でこうかかれていた。

この花の花言葉が分かったらあけていいよ。

僕は心臓の鼓動がはやまった。花言葉?もしかして薔薇の花言葉気付いたのかな?
慌てて携帯で花言葉のページを開き、写真と同じ花を探す。
あった。この花だ。

アザリア
あなたに愛される幸せ
愛の楽しみ、恋の喜び

気付いてたのか。僕は手が震えていた。その手で封筒を開けた。

「たつきへ。余命のことも、全部知ってました。あとどれくらい一緒にいれるかわからないけど、それまでずっと一緒にいたいです。好きです。」

僕は涙が止まらなかった。

もっと生きたい。

〈完〉